第8章 樹木の果実: リンゴ

第8章 樹木の果実  TREE FRUIT



ఔ リンゴ  APPLES ఔ




 イギリスや世界の冷涼な気候の地域でもっとも人気があるのはもちろんリンゴです。リンゴはコルドン仕立て、エスパリエ仕立て、ステップオーバー仕立て、そしてロリポップ仕立てで最もよく育ちます。



品種 Varieties


 小さな装飾的菜園でも何種類かの品種を育てることはできるはずですから、受粉が良くできて、長い期間収穫できるように品種を選びましょう。私の最初のリストは実が熟す順番になっています。いずれもお互いに受粉できます。気をつけなくてはいけないのは、どの品種も花は通常の時期に咲きますから寒い地域では霜の害に注意が必要なことです。遅霜が問題になるようなら、二番目のリストから品種は選ぶほうが良いでしょう。ところで、リストの中にイギリスで人気のある品種'Cox's Orange Pippin'が含まれていることに皆さんは気づくかもしれません。この品種は成長が遅く、収穫量も他の品種とくらべて通常少ないのですが、最もよくないのはこの品種がオーガニック栽培ではとてもうどん粉病に弱いことです。これは買わないようにしましょう。


早く花が咲く品種 Early-flowering varieties


'Discovery'

 早咲きの品種の中では断然ベストで、8月から9月に熟します。クリスピーでジューシーな果肉と明るい赤色の果皮がとても魅力的です。実が落ちやすいので、摘果はあまりしないようにします。すべての早い品種に共通しますが、収穫したらすぐに食べるのが一番美味しいです。

'Katy'

 私が育てた品種の中ではいちばんたくさん実をつけてくれる品種で、毎年すごい量の収穫です。果実は赤い色で美味しいですから、これは欠かせません。


'James Grieve'

 日持ちがしないので商品としては流通しませんが、収穫後すぐに食べると素晴らしい味です。他のリンゴの木の最良の受粉木でもあります。果肉はジューシーでクリスピー、そしてとても美味しく、果皮は黄色のストライプが入った赤色です。霜の害に少し抵抗性があるので、北部のガーデナーには有用な品種でしょう。9月から10月に果実は熟します。


'Jupiter'



 'Cox's Orange Pippin'の代わりとして育てられた新しい品種です。果実は赤橙色で、素晴らしい'Cox'の味です。'Cox'の3倍の収量で、1月まで持ちます。受粉木としてはあまりよくありません。10月に果実は熟します。


'Fiesta'


 'Jupiter'とよく似ていて、'Cox'の風味です。収量が多く、よい受粉木でもあります。10月には熟してきて3月まで持ちます。


'Kent'


 人気のある'Cox'よりも収量が多くて育てやすい品種の追求から生まれたもう一つの品種です。貯蔵することで素晴らしい味がいっそうよくなります。11月に熟して2月から3月まで持ちます。


'Bramley's Seedling'


 いまでも料理用としては最良の品種ですが、木の勢いが旺盛です。明るい緑色で、料理すると素晴らしい味です。残念ながら他の木の受粉はできませんが、いままで述べたほかの品種の花粉で受粉します。11月に熟して、3月までもちます。


 もしあなたが冷涼な地方に住んでいるのでしたら、花が遅く咲く品種のほうが利点があることに気づかれるでしょう。しかし早咲きと遅咲きの品種を混在するのは、うまく受粉できないことになるのでやめましょう。

遅く花が咲く品種 Late-flowering varieties


'Merton Charm'

 最近の品種で、緑がかった黄色をしていて、クリスピーでジューシーでとても美味しいリンゴです。9月には熟してきます。収穫したらすぐに食べます。


'Orleans Reinette' 


 古いフランスの品種で、素晴らしい風味と品質です。11月に熟して1月まで持ちます。


'Ashmeads kernel' 


 これもふるい品種ですが、決して悪くありません。とても味のよい小豆色の果実です。12月に熟し、3月まで持ちます。


'Suntan'


 なかなかいい新しい品種で、いつもいちばん長期間もっています。素敵な'Cox'の風味が、貯蔵しているうちによくなっていきます。11月に熟して、3月まで十分もちます。


'Howgate Wonder'


 大変収量の多い料理用リンゴの品種です。'Bramley'ほど素晴らしい味ではありませんが冷涼な地方では有用です。11月に収穫、3月までもちます。


 何本もリンゴを植えるようなスペースがないといった理由で受粉に問題があるようでしたら、野生リンゴの'Golden Hornet'を植えればほとんどのリンゴに受粉できます。

 料理用の野生リンゴでいちばん良いのは'John Downie'です。野生リンゴはリンゴとまったく同じ方法で育てることができます。


台木 Rootstocks


 台木の導入でリンゴの木の成長を制限し、短い年月で実をつけるようになり、果樹栽培に革命が起こりました。研究はくだもの栽培業者を対象に行われてきましたが、ガーデナーにも大きな利益をもたらしました。

 選択できる台木はいくつかありますが、ガーデナーが覚えておく必要があるのは私の考えでは2種類だけです。
 M27は小さな果樹を作り、2年目には実をつけます。ずっと支柱が必要であるような非常に肥沃な土壌での栽培にのみ用いられます。
 MMM106は少し大きなリンゴの木に成長させますが、2年目から実をつけます。強い根をもち、すべてのリンゴの品種に対してそれほど肥沃でない土壌での栽培に適します。
 果樹の苗木を購入する際には台木の種類を確かめましょう。もしよくわからないというような園芸店では購入せず、台木の分かる他の園芸店へ行って買いましょう。


植え付け Planting


 苗木の購入は休眠期に専門業者からがベストです。苗木は裸根で届けられます。植えつけの前に1時間バケツの水につけておきます。支柱に固定して植えつけますが(第5章の木々の植え付け法を参照)、台木との接合部が十分地面から出ていることを確認します。接ぎ木した品種のほうから根を張らせないようにしないと、台木の効果が失われます。この庭では定期的にマルチングを行いますから地面がだんだん上がっていきます
。ですから植えつけは高めにします。

 鉢植えの苗木を購入する場合も、ほかの花木の場合と同じ方法で植えつけますが(第5章の木々の植え付け法を参照)、やはり接ぎ木部分が必ず高い位置になるようにします。

 コルドン仕立てでは苗木は地面に対して30度ほど傾けて植えつけて、ただちに支柱に結びつけます。数年後に支柱の上まで成長したら45度まで傾けます。ですから植えつけるときにこれを許すようにしておきます。すべての苗木は植えつけ後すぐに支柱にソフトなひもで結びます。



剪定 Pruning


 装飾的菜園で育てるすべての樹木は徹底したシステムで誘引していきます。つまり、最初の年に剪定したあとは、おもな剪定は夏の間に行います。その最良の時期はふつう8月から9月です。つねによく切れる剪定ばさみを使用し、芽の直上まで切り戻します。もし芽の上に長く枝が残ると、枯れ込むために病気を木に導きいれる可能性があります。


コルドン仕立て

 幹は一本にして木の全長にわたって結実する短果枝ができるように剪定します。冬に苗木を植えつけて、すぐに前年の成長分の三分の一ほどを切り戻します。前年の新しい成長部分は容易にわかります(もし1年生の苗ならもちろん接ぎ木の全体が前年の成長部分です)。もし側枝がある場合には7.5cmを残して剪定します。これで冬の選定作業はすべてです。それ以後は夏にすべて行います。

 8月か9月の初めに新しく伸びた枝を7.5cm残して切り詰め、それから出た枝はすべて2.5cm残して切ればそれで終わりです。この方法で幹の全長にたくさんの短く細い枝を築き上げることになります。これらが短果枝と呼ばれ、リンゴの実がつくところです。

 主枝先端の成長はあなたが望む高さに達するまではそのまま成長させます。通常は支柱の先端までとなります。そこを越えて成長したら、側枝と同じように夏に切り戻します。そして支柱を地面に45度の角度まで引き下げて成長をさらに抑制します。

 私は最初にコルドン仕立てを説明しましたが、それはこれを理解すればほかの形の仕立て方もそれに準じるからです。枝の剪定をコルドン仕立てと同じようにすればよいのです。



エスパリエ仕立て

 すでにエスパリエに仕立ててある苗木を購入することもできます。しかし、とても高価ですし、自分でするほど楽しくはありません。

 最初に誘引用のワイヤーを、フェンスにあるいは専用の支柱を立てて、30cm間隔で固定します。

 この仕立てでもやはり一年生、あるいは二年生苗木からスタートします。最初の冬に一番下のワイヤーから5cm上で主枝を切ります。

 次の年の夏にいくつかの枝が伸びてきますから、そのうちの3本を残します。まっすぐの支柱1本と斜め45度の支柱2本をワイヤーに取り付け、一番上の枝をまっすぐの支柱に、ほかの2本の枝を斜めの支柱に誘引します。これで一段目ができあがりです。

 2年目の冬には主枝となる中央の枝を2段目のワイヤーの5cm上まで切り詰め、同様の方法で2段目をつくり、3年目の冬にはまた3段目を、と繰り返していきます。目的の高さに届いたら、最後は3本ではなく2本の水平方向の枝だけを成長させます。

 夏に水平方向の枝をコルドン仕立ての主枝と同じように考えて、そこから伸びた枝を7.5cmと2.5cmに切り詰めて結実する短果枝をつくっていきます。


ステップオーバー仕立て

 この仕立ては一段のみのエスパリエ仕立てです。これもすでに仕立てた苗木を購入できますが、とても簡単に自分でつくることができます。

 地面から23cmの高さにワイヤーを張ります。そうすることで地表から30cmにできます。この高さなら花壇に入るときに簡単にまたげます。

 冬に植えつけてからワイヤーの5cm上まで切り戻しますが、この仕立てでは誘引する枝は2本で、すぐにワイヤーに誘引します。あとは夏にコルドン仕立てと同じように剪定していきます。

ロリポップ仕立て

 これは枝で作った丸いフォーマルな形が幹の上に乗る仕立て方に私が名づけたものです。4本の枝を誘引するのに2つの丸い輪が必要です。

 輪は直径13ミリのポリエチレンのパイプで作ります。建材店で購入できます。180cmの長さに2本切り、5cmほどの長さのダボ(円柱形の木片)をパイプの一端に差込み、パイプを丸く曲げてもう一方の端にダボを差し込んできれいな丸い輪を作ります。二つの輪をナイロン製の紐で直角になるように結びます。そしてそれぞれの輪を2本ずつの支柱で苗木の上に支えて固定します。

 苗木を地面から120~150cmの高さで剪定します。4本の支柱で選定した苗木のすぐ上に二つの輪がくるようにします。夏の間に枝が伸びたら上の4つの枝をそれぞれ輪に誘引します。

 最終的にそれぞれの枝が輪の頂上まで伸びたらそこで切って、束ねるかあるいはお互いを接木をします。一年後、枝が硬くなって輪は不要になるので取り除きます。それ以降は他の仕立てと同様に、それぞれの枝を一つのコルドンとみなして、毎年夏に剪定して結実する短果枝を作ります。






ノッチング(芽傷) Nicking and notching


 あなたが思い描くように木を誘引するためには木も協力してくれなくてはなりません。普通は問題ありませんが、時々枝が欲しいと思う場所に頑固に枝を出してくれないことがあります。芽はあるのに,、それが単に
成長してくれないのです。こういう場合、木が持っている自然の性質を利用してコントロールすることも可能です。

 光の射す方向に植物が成長するために自然は「頂芽優勢」という仕組みを備えています。成長点から成長を抑制する物質を下のほうにあるすべての芽のほうへ作用させ、それによって下のほうの芽は成長させず、一番上にある芽に木のもつ成長のエネルギーを集中させるのです。もしあなたが成長させたい芽に作用する成長抑制物質の供給をストップすれば、抑制効果は止まって芽は旺盛に成長することができるようになるでしょう。

 この抑制物質は樹皮のすぐ下の組織の中を運ばれますから、抑制物質が芽を迂回して下のほうにいくように芽のすぐ上に切り込みを入れるのです。逆に、芽の成長を止めたい場合は、芽のすぐ下に切れ込みを入れて抑制物質が目に集中するようにします。この作業の時期は五月が最適です。





施肥 Feedding


 木の周囲の土壌を肥沃に保つことは木のためはもちろんですが、そのまわりに育てたい花や野菜が競合するからでもあります。ですから毎年春に大量の肥やしや堆肥を使ってマルチングをするのを忘れないようにします。この庭では木のまわりに種をまいたり苗を植えたりするときに肥料をいれますから、わざわざ木のために肥料を入れる必要はありません。



摘果 Thinning

 大きなリンゴを欲しない限り摘果は不要です。たぶん料理人以外の一般の人々には少し小ぶりなリンゴが好まれるはずです。もし摘果する場合には、いわゆる「6月の落果」まで待ちましょう。私の庭ではふつうこの落果は7月にみられますが、落果した小さなリンゴがたくさん落ちているので落果がどの時期に起こるかは必ずわかるはずです。食用のリンゴでは摘果で果実の間隔を10cmぐらい空け、料理用にはもう少し間隔を広げるようにします。まず形の悪いものから摘果し、中央の大きな実を残します。しかしたいていのガーデナーは自然に任せていると思いますし、もしたくさん小さなリンゴが実ったら、それはそれでいいでしょう。




収穫と貯蔵 Harvesting and storing


 早く熟す品種は数週間以上は保存がききませんし、木になっているのを直接食べるほうが良いでしょう。保存のきく品種はポリエチレンの袋に保存するのがベストです。完璧なリンゴだけを選んで細心の注意を払って収穫します。軟らかい布で裏打ちした籠にそっと入れるようにします。

 ひとつのポリエチレン袋に900グラム以上は入れないようにし、袋の入り口を閉じて小さな針孔を2個あけます。たくさん穴をあけてはいけません。450グラムに針穴1個です。霜の降りない寒いところに袋は保存します。